昨年、私共が茨城県で主催大会を行った際、山梨学院の高木監督がわざわざ足を運んで下さった。私共のチーム の選手を見て、誰でも評価しそうなA君~E君ではなくF君の名前を挙げ、「ものすごく可能性を秘めているので育てさせて欲しい。」と電話をしてきた。私は思わず、現段階で高校の指導者にあまり評価されない体型のF君を評価していただき、「良く気がついていただきました。」というような趣旨の感謝の言葉を伝えた。 ある高校の練習会の後、「A君、B君、C君、D君、E君が欲しい。」という連絡を監督からいただくことがある。「選手とよく相談をして連絡をさせていただきたいと思います。」と電話を切る。電話を切った後、F君とG君の名前が挙がらなかったことを残念に思う。毎年のごとく私が残念に思う瞬間だ。A~E君は誰が見ても欲しいと言ってもらえることは分かっている。 F君とG君の可能性に気がつかないものかと残念に思うのだ。読んでいただいている方は、評価された選手と、されない選手の差をお分かりになるだろうか。多分今の姿なのだろう。3年先のイメージはないのだろう。だから気づかない。 数ヶ月前、ある高校の1年生に現中2が胸を借りた。スピードとパワーサッカーで圧倒され10点くらい取られて負けた。2学年の違いはあるが、私共のチームはたいしたことのない県トレが7人出場していて、相手のパワーサッカーにドリブルで対抗していた。「こんなんで何かうちから学ぶことがありました?」ゲーム終了後監督さんから、嬉しさをかみ殺すように言われた。私が胸を借りた理由は、私共の選手が、小さいながらいろいろなことを考えてプレーしていることを感じて欲しいことと、中2段階からスカウティングする目を持っているかの確認だった。そのような感覚が無いことは分かっていたのだが、残念に思った。ユース年代3チームのトレーニングを見学してきた。1つはJ。2つは強豪校。3チームともパスのトレーニングは全く情報を取らず、本来いるはずの敵を意識することなく、淡々と決められたマーカーに動く味方にパスを出すトレーニングだった。がっかりした。全くゲームを意識していない。面白い選手になるとしたら、環境ではなく本人の持っているセンス以外の何ものでもないと感じた。 試合をゲームとも言う。ゲームとは、面白いと言う意味もこめられてのことだろう。そのようなチームの試合を見に行くと、「ゲーム」とは程遠く「球蹴り」にしか見えない。ベンチから監督が怒鳴りまくりの、指示しまくりの場面に出くわすことが多く、見ていて胸が苦しくなる。もう10年も前のこと、私にとって「青天の霹靂なる言葉」を、来春鹿島アントラーズに入団の決まった鈴木選手のお父さんから言われた。「ナベちゃんのチームの選手はロボットだね。自分で考えてプレーしてないよ。」船橋中学校で100人をこえる選手を抱え、朝から晩まで一生懸命やっているつもりだった。ベンチから見ていると次のプレーが予測でき、選手のプレーの多くに注意を促し喰らわないよう対処させていた。今も時々他チームのベンチで見かけるが、当時の主役は選手ではなく私だったように思う。当時鈴木さんから言われたことは自己理解できたが、どうしたら自分で考える選手になるのか全く分からなかった。5年ほど前のことだったか、奈良の中瀬古先生に「関東のチームは速いのう。戦術ばかり教えていて、選手は全く上手くあらへん。ダダと行ってババット点取るんや。上では通用せえへん。」と言われた。滋賀県セゾンの岩谷さんにも「関東のチームは戦術ばかりや。無茶苦茶やで。」と言われた。高田に触れることができ、3年前の夏の下北山で、福岡2002というチームが他チームと対戦しているゲームを見た時、「大人の問題だ」ということに気がついた。 この木曜日、帯広北高校の岩見監督(元市船サッカー部ヘッドコーチ)が、わざわざ船橋まで足を運んでくださった。ジュニアのトレーニング終了後、久しぶりに岩見さんと飲んでいくうちに激論になり、「熱っけのチームは勝ってないじゃん。」と言われた。翌日金曜の夜に私共の選手のトレーニングを見ていただき「面白い」とも言われた。何回も全国優勝をし、Jリーガーを20人以上輩出したチームのヘッドコーチを勤めた岩見さんから、そんな言葉をいただいた。20年来お付き合いさせていただいているが、褒められたのは確か初めてのことだと思う。翌日の予定は、東京の決勝戦を見学される予定だったが、急遽私共のU-13と千葉県トレセンU-12のゲーム見学に予定を変えられた。この年代でボールを持つこと、考えること、相手の逆を取ること等を重視してのゲームを見てもらった。勿論1学年違うこともあり、「スピード」「パワー」「高さ」に制約を持たせてのゲームだった。約2時間で数本行い、結果5-6で負けたのだが「面白い」「これでいいんだ」と2日連続で褒めていただけた。 10年前に言われた「ロボット」と言う言葉は、今も強烈に頭から離れない。携帯電話が鳴る。「ナベちゃん今事務所?」鈴木さんはお忙しいにもかかわらず、2ヶ月に1度くらいのペースで事務所に来て、いろいろなアドバイスをして下さる。まだまだこれからなのだが、「自分で考えてプレーする選手が、育つ環境に近づいたね。」と、言われる日が来るかもしれない。 (渡辺)